Mundo de ficçãoIniciar sessãoフレドリック視点
どうして祖母が、わざわざ俺にこの女の付き添いを頼んだのか、本気で理解できない。
……神様。
俺の車に、マチルダみたいな女を乗せたことなんて今まで一度もない。あのボサボサの赤毛で、後部座席を汚されたらどうする?
そもそも、あいつの服は俺の高級車に座るほど清潔なのか?イライラする。
まあ幸い、ポーラは優しくて理解がある。
やっぱり、彼女を恋人に選んだのは間違いじゃなかった。
付き合って三か月ほどになるが、俺は確信している。
彼女こそ、将来の妻になる女だ。……自分で言っていて少し笑えるけど、本気だ。
俺は彼女を心から愛している。
今までの女たちは、ただの遊びだった。
美しさも、刺激も、全部一時的なもの。本気になったことなんて一度もない。
でもポーラは違った。
彼女は俺に、“本当に誰かを想う”という感情を教えてくれた。
愛情とか、関係とか、そういうものの意味を。
美しさも、人柄も、非の打ち所がない。
……残念ながら、祖母は彼女を気に入っていないみたいだが。
俺がポーラとの関係を話すたび、祖母は露骨に冷たい態度を取る。
「ここで大丈夫です」
マチルダの声で、俺は反射的にブレーキを踏んだ。
着いたのは、彼女の家の近くにある小さな空き店舗の前。
「早くしろ。お前を送るために俺の時間を使ってるわけじゃない。婆さんに頼まれなかったら、絶対乗せてないからな」
「ダーリン、言い方がきついわ」
ポーラが優しくたしなめる。
「ありがとう、ポーラ。私だって、ローザ様に言われなければあなたたちと来たくありませんでした!」
俺は勢いよくマチルダを睨んだ。
……こいつ、ポーラに向かって何言ってる?
俺に言い返すなんて、いい度胸だ。
ドアが閉まると、ポーラがそっと俺の頬に触れた。
「どうしてそんなに怒ってるの?」
「今の聞いただろ? あいつみたいな弱い女が、俺に口答えする資格なんてない」
「でも、マチルダがどんな世界で生きてきたか知ってるでしょう?」
ポーラは静かに笑う。
「私たちとは違う世界の人間なんだから、完璧な振る舞いを期待する方が酷じゃない?」
……意外だった。
ポーラが、ここまで冷酷な考えを持っているなんて。
でも嫌じゃない。
むしろ、最高だ。
優しいのに鋭くて、甘いのに残酷。
まるで薔薇みたいな女。
綺麗なのに棘がある。
今、彼女は俺と同じことを考えている。
マチルダは俺たちとは違う世界の人間。
そもそも、同じ場所に立つ資格すらない。「てっきりマチルダの味方をすると思ってたよ」
俺は笑いながら言った。
「でも、やっぱり俺の見る目は正しかった。ああいう連中と仲良くする必要なんてない。どうせ、いずれは人の善意につけ込むだけだ。そういうの、何度も見てきたからな」
ポーラは楽しそうに笑った。
赤い唇が妙に色っぽくて、俺は自然と顔を近づける。
少しずつ。
キスをしようとした、その瞬間――
ガチャ。
後部座席のドアが突然開いた。
「あ……すみません」
リュックを背負ったマチルダが戻ってきた。
あの気弱で鬱陶しい顔が、一気に空気を壊す。
「行きましょう、ダーリン」
ポーラがすぐ言った。
「マチルダを送ってあげないと」
俺はマチルダを睨みつけ、そのままアクセルを踏み込んだ。
……最悪だ。
あいつさえ邪魔しなければ、ポーラとの初キスだったのに。
まだ一度も彼女に触れていない。
だからこそ分かる。
ポーラは、今までの女とは違う。
俺はバックミラー越しにマチルダを見る。
窓の外をぼんやり眺めていた。
「お前がこれから何を企んでるのか知らないが、一つだけ覚えておけ」
俺は冷たく言った。
「祖母を利用することはできないからな、マチルダ」
「ダーリン」
ポーラが柔らかい声で口を挟む。
「どうしてそんな言い方をするの? マチルダみたいな子が、悪いこと考えてるとは思えないわ。まあ……私たちとは住む世界が違うとしても」
俺たちは目を合わせ、意味ありげに笑った。
……どうしても、俺はマチルダを信用できない。
祖母の優しさにつけ込もうとしている気がしてならない。
貧しくて弱い女が、何を考えているかなんて分からないだろ?
だから最初に釘を刺しておく必要がある。
ポーラが上手く空気を作ってくれたおかげで、俺の言いたいことも伝わったはずだ。
「ねえ、フレドリック」
ポーラが楽しそうに笑う。
「マチルダ、本当に傷ついてるみたい。見て。泣くの我慢してる」
俺は再びバックミラーを見た。
マチルダは静かに涙を拭っていた。
なのに、一言も言い返さない。
「お前の涙なんて興味ない」
俺は淡々と言い放つ。
「ただ理解してほしいだけだ。お前は絶対に俺の家族を利用できない。祖母は優しいけど、俺は甘くない。分かったなら、屋敷には一日だけ世話になるんだな」
……返事はない。
マチルダは黙ったまま。
正直、少しくらい反抗すると思っていた。
でも違った。
本当に弱い女なんだろう。
もう少しくらい、“魅力的”になろうと努力すればいいのに。
ハッ。
「マチルダ、どうして泣いてるの?」
祖母の声に、俺は一瞬身体を強張らせた。
……まさか、車の中のことを全部話すつもりじゃないだろうな。
「い、いえ……泣いてません。ただ、目にゴミが入っただけです。それよりローザ様、私は仕事へ戻ります。終わったらまた来ますので……父を一人にしてしまっているので」
……完璧だ。
ちゃんと黙っていられるらしい。
「それなら婆さん、ランチに行こう。腹減った」
マチルダはすでに歩き出していた。
すれ違いざま、一瞬だけこちらを見る。
俺は冷たく皮肉っぽい視線を返した。
「マチルダ、待ちなさい」
祖母が呼び止める。
「仕事が終わったら職場で待っていて。フレドリックと一緒に迎えに行くから」
俺は即座に眉をひそめた。
「は? どういう意味だよ、婆さん」
「たまには三人で過ごそうと思って。あなたと、マチルダと、私で。ポーラは来ないわ」
祖母は平然と言いながら、ちらりとポーラを見る。
マチルダも驚いた顔をしていた。
「もう行っていいわよ、マチルダ。伝えたかったのはそれだけ」
マチルダはすぐ頭を下げ、そのまま急いで去っていった。
……イライラする。
祖母は一体何を考えてるんだ?
「婆さん、なんでそんな面倒なこと思いつくんだよ? 午後はどこ行く気なんだ? 俺とポーラは――」
「静かにしなさい」
祖母が鋭く遮る。
「文句は聞きたくないわ、フレドリック。もう決めたの。今日は行くの。ポーラ抜きでね」
俺は深く息を吐き、前を歩く祖母の後ろを渋々ついていく。
……正直、ランチ自体キャンセルしたい気分だった。
最悪だ。
全部台無し。
ポーラが背中にそっと触れてきても、全然気分が晴れない。
本当にどうかしてる。
全部――マチルダのせいだ。