マチルダ視点
2017年8月 ― 結婚式まであと一週間
落ち着かない。
今朝から、これまで感じたことのない不安に飲み込まれていた。
このコンビニで何度レジを打ち間違えただろう。
「大丈夫、マチルダ?」
同僚はいつも、私の心がどこか遠くへ飛んでいることを見抜く。
「うん、大丈夫」
「緊張してるんでしょ? もうすぐ結婚式だもんね」
私は頷いた。
職場の人たちと特別仲が良いわけじゃない。
そもそも親しい友人なんて一人もいない。
でも、彼女の言葉だけは否定できなかった。
私は怖かった。
時間があまりにも早く過ぎていく。
しかも今日に限って、ウェディングドレスの試着があるのだ。
「大丈夫よ、マチルダ。私だってフレドリックみたいなイケメンの若手実業家と結婚するなら緊張するわ」
同僚は笑った。
「ここにいる女性全員が――いや、ニューヨーク中の女性があなたを羨ましがってると思う。あなたの立場になりたいって思ってる人、たくさんいるわよ」
もし彼女が知っていたら。
私の不安が幸せから来ているのではなく、これから始まる長い悪夢への恐怖だということを。
「ほら、心配するのは終わり。あなたの王子様が来たわよ」